―――前回のメールマガジンVol.10で、先生以外のメンバーがミャンマー人ばかりという少林寺拳法の支部をご紹介しました。東京都品川区で活動している、関東実業団少林寺拳法連盟所属の米蔵(よねぞう)支部です。このたび、支部長の石原吉洋(よしなだ)先生にお話を伺いました。
私は10歳から少林寺拳法を続けてきて、今年で46年目になります。2017年、50歳になったとき「もうそろそろ引退しようかな」と思い、辞める前の記念にと宗道臣(そう どうしん)塾に参加したのです(編注:宗道臣塾とは、少林寺拳法の歴史や開祖・宗道臣の人となりや志、現代社会の問題をテーマとする特別講習会です)。
そこでは少林寺拳法第2代師家である宗由貴(ゆうき)代表(当時)からの貴重なお話を伺いました。また、色々な立場の参加者と肩書を外して社会問題などについて話し合うことができ、とても刺激を受けたのです。そのおかげで「辞めるなんていってる場合じゃない!自分には世の中のためにまだまだすることがある!」と引退を思い直したのです。
ちょうどその年にカリフォルニアで開催された世界大会で、ご縁があってベトナム・カンボジアの支部で監督をされている藤田先生とお会いしました。それから翌2018年には、藤田先生の拳士仲間と世界各国の少林寺拳法の支部を巡る「出稽古弾丸ツアー」に何回か参加しました。1回のツアーで2,3カ国を訪れるのですが、昼練習して夜は飲み会、翌朝次の国に移動、といったスケジュールでした。そのとき訪れた国は、ベトナム、カンボジア、インドネシア、ネパール、東ティモール、マレーシアにブルネイ、ロシアなど。もちろんミャンマーへも行きました。外国へは、私は学生時代からバックパックの旅をするのが好きで、インドやヨーロッパなどへも行ったことがあるんです。大学時代に少林寺拳法部で45日かけて全米1周合宿に行ったのが初海外でした。
またその頃、自分の道場を作りたいと思うようになっていました。
私は10年ほど前からセブンイレブンを経営しているのですが、社員やアルバイトのスタッフは外国人、とくにミャンマー人がほとんどです。特にそうしようとしたわけではなく、口コミで彼らのネットワークができたからのようで、自然とそうなりました。
それであるとき、店の社員やアルバイトスタッフのみんなに、「日本の文化体験として、少林寺拳法をやってみたいと思う?」ときいたらすぐに「やってみたい!」という答えが返ってきました。当時は社員7人、アルバイト40人くらいだったんですが、「じゃあ、希望者が10人集まったら、やろうか」と言ったら、次の日にもう10人集まっていました。
そんなわけで、うちの支部の拳士がミャンマー人ばかりなのはたまたまなのですが、米蔵支部ができたのです。
支部名の「米蔵」も、コンビニの開業時に屋号を決める段になって、「石原商店」とか何かにしようと思ったんですが、すでに「石原」という名前はあらかた使われていたんです。それで、屋根瓦の職人だった祖父の名前をそのまま使ってみたというわけなんです。その時はまさかこんな(支部名に使う)ことになるとは思わなくて…(笑) 支部名のことも拳士が入門するときに説明するんですけど、どう思っているんでしょうね。道衣(どうぎ)の肩のあたりに、支部名を記した袖章をつけますよね。うちの場合は「米蔵」と。まあ、漢字だからかっこいいと思っているんじゃないでしょうか。
また、やはりとくに道衣に憧れるみたいですね。入門するとなったら、すぐに道衣を着たがる。入門するには少林寺拳法の本部に登録をするのですが、その手続きが済む前から「道衣が着たい」と言ったりします。
それから、日本人の拳士との一番の違いといったら、たくさんある技の名前を覚えるのが難しいことでしょうね。漢字で書かれていますし。
あとは、鎮魂行(ちんこんぎょう:少林寺拳法の思想や教義をまとめた道訓を唱える。やや難しい日本語で書かれており、長さは千字ほど)も、ふりがなのふられた道訓をみんなでがんばって唱和しています。意味も、定期的に少しずつ説明しています。
また、ミャンマー人は日本人とメンタルが似ているなとも思います。仏教の国だからかもしれません。
それに何より、すごく義理堅いと思います。以前から店の人員が足りなくなったときなどは、深夜であっても私がシフトに入ってカバーするなどしていたのですが、ミャンマーのスタッフが増えてきてからは次第にそのようなことがなくなってきたんです。というのは、スタッフの中で欠勤が出てシフトに穴ができたりすると、「オーナーをシフトに入らせるな」と私に気を使って皆でシフトをやりくりしてくれるからなんです。みんな、とても優しいんですよ。
支部に勧誘するときも、はじめに、これは喧嘩に強くなるためのものじゃないんだよ、と説明します。目的はコミュニケーションや仲間づくりなんだよ、と。そういう考え方も合っているのかもしれません。たまにそれで入門しない人もいますが、それはそれではじめから目指すところが違っていたということですから。
練習の出席率はまあまあで、週2回の練習(現在は週1回)に毎回来る拳士もいます。昇級、昇段試験の前になると、ずっと出席率が良くなりますね。
また、大会の前になるとがぜん気合が入ります。みんなメダルを欲しがりますね。実は私達の支部が参加する関東実業団の大会ではベテランや高段者の参加が多く、我々のメンバーのほとんどがエントリーする級拳士の部の参加人数は少ないので、入賞が狙い目だったりします。
支部の開設から、今では店舗も3つに、アルバイトも50人くらいに増えましたが、店長など社員からは「あまりみんなを少林寺に勧誘しすぎないでね」と言われています。練習日の日曜日の夜にシフトが薄くなるから、と(笑)
それでも拳士たちは留学生が多いので、年に1度は数人ほど帰国と同時にやめていきます。それと入れかわるようにして、新たに拳士が入門しますので、メンバーはだいたい10人で落ち着いています。
何にせよ、ミャンマーに帰国しても少林寺拳法を続けていってほしいなと思います。
―――石原先生率いる米蔵支部の皆さん、これからも頑張ってくださいね。
みなさんが働いているセブンイレブンは、港区三田1丁目店、港区広尾駅北店、そして新店の南麻布5外苑西通り店です。ミャンマー人ほか明るく元気なスタッフがお出迎えです。
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